「次の年に、同じことを大学と検査機器メーカーが発表した」。私は長い間、そう覚えていました。 ところが古いブログと外部記録を掘り起こすと、少し違う時間軸が見えてきました。

01 / WHAT IT IS

そもそも、
白血球像とは何か。

血液には赤血球、白血球、血小板などがあります。「白血球像」は、そのうち白血球を種類ごとに分類し、 どの細胞がどのくらい存在するか、形に異常がないかを確認する臨床検査です。

装置で自動分類できるものもありますが、異常細胞が疑われる場合などは、熟練した臨床検査技師が顕微鏡画像を見て判断します。 経験が結果を支える、高度で専門的な仕事です。

02 / WHY AI

目的は、AIを使うことではなく、
結果を早く届けること。

AIが流行していたから試したのではありません。血液疾患で苦しむ患者さんを診る医師へ、 できるだけ早く、正確な検査結果を届けたい。そのために、熟練者の判断を支援できる画像分類技術が使えないかと考えました。

IBMの担当者も「関西圏の医療分野でAI活用の実例をつくる」という意義を理解し、検証への協力を社内に掛け合ってくれました。 そこで採用したのが、当時のIBM PowerAI Visionです。

新しい技術を使いたかったのではない。
現場の時間を、患者さんの時間へ返したかった。

03 / PROOF OF CONCEPT

2019年11月。
白血球を、AIに見せた。

白血球の画像を使い、形態を分類するAIの実証を進めました。PoC——Proof of Conceptとは、 大きな製品開発へ進む前に「この考え方は、本当に使えるのか」を小さく確かめる検証です。

2019年11月、PoCは完成しました。社内の専門技師による評価では、ベテラン技師と同等と受け止められる分類能力を示し、 結果を見た専門家は驚いてくれました。

QUESTION AIで分類を
支援できるか

熟練者の知識が必要な白血球形態分類へ画像認識を適用

POC RESULT 実用化の可能性を
専門家が確認

臨床利用を断定する段階ではなく、次の検証へ進む価値を示した

04 / SHELVED

未来は見えた。
けれど、事業化には進まなかった。

技術的な可能性は見えました。しかし、組織の方針変更もあり、次の検証や実用化には進みませんでした。 半年ほどかけて育てた取り組みは、そこで止まりました。

当時は「使えないと判断された」という悔しさだけが残りました。論文も製品も外部発表もない。 だから年月がたつほど、世の中に存在しなかった仕事のようになっていきました。

05 / EXCAVATION

検索エンジンが、
本人の記憶を直してくれた。

2021年、順天堂大学とシスメックスによる研究を知った私は、「自分たちが先だったのに」と強く悔しがりました。 当時のブログにも、「次の年に同じことが論文になった」と書いています。

ところが改めて公式記録を確認すると、両者の共同研究は2016年に始まり、血液形態検査の自動化に関する論文は 2019年9月16日に公開されていました。私たちのPoC完成より約2か月前です。 「日本初を逃した」という記憶は、正確ではありませんでした。

MY MEMORY自分たちが先 PUBLIC RECORD先行研究あり = NEW VIEW同じ未来を見ていた

日本初ではなかった。正直に言えば、悔しさは少し減りました(笑)。 でも、価値が消えたわけではありません。大規模な研究機関やメーカーとは別の場所で、 臨床検査の現場から同じ未来を見つけ、IBMと専門技師をつなぎ、PoCまで形にしていたのです。

発掘で見つかったのは「幻の日本初」ではなく、もっと確かなものでした。 課題から出発し、使える技術を探し、人をつなぎ、動くものにする——それが、私が何度もしてきた仕事です。

FACT SOURCES 順天堂大学|教室TOPICS / 順天堂大学|研究業績 / 順天堂大学|2021年プレスリリース

先を越されたのではなかった。
同じ未来を、現場から見つけていた。

検索は経歴を増やしません。けれど、忘れていた仕事を掘り起こし、記憶の形を正してくれます。
WRITTEN BY 太城 義雄(たき よしお)

IBM i / AS/400を愛するSE